法人格否認の法理
私が初めて依頼人の「プロミスの切替案件」に係わったのが平成21年の4月頃だった。今はもう平成23年だから足かけ2年になる。プロミスの履歴開示にクラヴィスからの借換による金銭取引が含まれているとの説明があったのである。
当時,プロミスとクラヴィス(旧社名リッチ,ぷらっと,クオークローン,タンポート)との関係について詳しい情報を持ち合わせていなかった私は個別に事件処理をすることにした。要するに,クラヴィスについては過払金返還を請求し,プロミスについては残金ありとして分割返済の方針を立てた。そして,クラヴィスについては過払返還訴訟を平成21年6月に提起し,プロミスについては過払金で返済できるまで放置することにした。今思えば,プロミスについて現在まで放置したことは正解だったと思う。
また,当時プロミスの切替案件を一連で処理しようとしても,情報量の不足から困難を極めたに違いなく,多くの同職や弁護士すら対応できなかったことが,プロミス側の提供する判決集から推測できる。
クラヴィスとの過払返還訴訟はあっさりと決まった。最初から負けるつもりであったのかもしれない。しかし,クラヴィスは過払金を支払わなかったのである。
現在,プロミス側は強気である。背景には,この手の切替案件が,切替案件として気づかれずに大部分が処理されたであろうことも一因であるに違いないが,係争中の案件についてもかなりの割合でプロミス側有利に展開しているようである。同職からの情報でも敗訴したとの連絡があったし,おおよそ5割程度の確率で推移しているようである。
これらの判例を分析してみると,争点としては,債務引受ないしは契約上の地位の譲渡があったかどうかのようである。そして,その核心とは,受益の意思表示の方法と時期に尽きるようである。
法学部出身でもない私がいうのも僭越ではあるが,集めた情報から分析するとプロミスとクラヴィスとの関係については,全く異なる別法人とは思えないのである。そこで脳裏に浮かんだのが法人格否認の法理である。法人格否認の法理とは,岡口基一著(ぎょうせい出版)要件事実マニュアル上80頁では「会社について,法人格という形式を貫くことが社会的正義や公平に反する場合に,特定の事案に限って会社の独立性を否認し,会社とその背後にある実質的支配者とを同一視するための法理である。」と説明されている。形式上法人として存在しているが,特の事案に限って実質的には個人の行為ととらえようとするものである。
本件で言うと,クラヴィスが形式上の法人であり,プロミスが背後者ではないかと考えたのである。
形式上の法人と主張するからには,その設立の背景から検討しなければならない。
1 一般的に,利息制限法の制限利息を超えて貸金業を営んでいても過払金が問題とされなかった時代には,いかに多くの顧客をとりこむ為に窓口を増やすかが消費者金融間における利益獲得競争の勝負の鍵であったから,いくつもの子会社を設立し,多彩な宣伝をし,同一顧客とでも複数の包括的金銭消費貸借契約を締結したほうが最小のリスクで最大限の利益が獲得できた。問題は,このような子会社とは名ばかりの実質同一法人に等しい事である。
2 そもそも,営利を目的とする企業には、最小の投資とリスクで最高の収益をあげようとする目標が存在している。貸金業を営む場合に,最も効率よく右目的を達成できる方法は,10万円を超え100万円を超えない範囲の金額を細かく何口も貸し付けるのが最も効率的である。貸付額が10万円では,利率は高くなるが貸付金額が少額な為収益が上がらない。また100万円を超えると利率は低くなるうえに,返済不能な場合のリスクも多くなるからである。
3 しかし,単なる分割返済として貸付しても貸付残高が返済により減少してくると,当然受け取る利息も少額になり,収益も上がらないから,借り換えさせて,貸付残高を減少させないようにしなければならない。それを解消したのがいわゆる包括的限度貸付契約である。このようにして,徐々に貸付残高を増額し,月々の約定利息の減少を防ぐ為には「途中借替」が最も効率的に収益を保つ手法であったのである。また,10万円以上100万円以下の残高で推移することも,高利とリスクを考えると最良の方法であった。一方貸付残高が100万円を超えると,制限利息も15%になるので,これを防ぐためには子会社をつくり別口で借りさせることが最良の方法であることを学んだ金融各社は次々と子会社を設立していった。本件クラヴィスも以上のような趣旨でプロミスが設立した子会社である。
4 また,クラヴィスはクオークローン,タンポートなどと,その商号を頻繁に変更してきた。一般的に消費者金融がその商号を変更するのは,一般顧客にとっては別会社であるかのようにみえるので借りやすく,また過去の返済の延などの負い目を払拭してくれるかのような思いを抱かせるからである。一方過払金返還が隆盛し始めた頃からは,返還金の追求を逃れることを目論んだこともその理由の一つである。あたかも犯罪者が名前を変えて逃走するが如きである。しかし,本人がいかにその細胞をクローン化し別人を創り上げ利益のみを吸収し,責任のみを押しつけた後に抹殺しようとしたり,名前をロンダリングして別人のように見せかけたりしようとしても社会から許される筈はなく,法は毅然と判断を下す使命を背負っている。
5 本件プロミスらグループも,商号を変えたり,子会社を設立したりして過払金の返還を逃れようとしても法を司る者はこれを見逃してはならない。それにもかかわらず,消費者金融各社は,債権譲渡などの様々な手法をもちい返還追を逃れようと画策してきた。債権譲受会社は,超過利息の責任はないと主張すればよいし,譲渡会社は無資力と説明して返還を拒めば足りるからである。しかし,現実に債権譲渡があったのであれば,譲渡会社は無資力であるはずがなく,このような偽装行為は通用しない。
6 さて,本題であるプロミスとクラヴィスとの関係であるが,クラヴィス(旧社名タンポート)は被告の100%の子会社である。2009年3月24日付け,子会社の異動,営業貸付債権の売却,並びに店舗の再編に関するお知らせによると,クラヴィスは,顧客に対する貸付金債権を平成19年11月までに被告に譲渡し,その後廃業した上で残存債権の回収を進めてきた。それは,金融業界を取り巻く環境が,貸金業法改正への対応に伴うマーケット規模の縮小や高まりする利息返還請求等により厳しさを増してきたからであると説明している。ここでいう,高止まりする利息返還請求とは,平成18年最高裁判決を受けての事であろうが,特定の顧客の場合,残存債権回収とはならなかったのは,既に過払いの状態であることをクラヴィスが知っていたからであり,いずれ専門家が介入し債務整理手続になれば,過払であれば残存債権の回収が不能であると判断したからである。すなわち,プロミスグループの利益のためには,廃業と決めたクラヴィスから特定の顧客への切り替えを勧誘する必要があった。
7 2007年5月1日付け,コスト構造改革への取り組みと新事業戦略の実施について及び金融事業縮小についてによると,クラヴィスを含めたグループ全体でコスト構造を見直し,収益力確保のため様々な改革を行うとしている。すなわち,グループ全体の利益が最優先であることを自白しており,対局にあるのは消費者の損失である。
同改革においては,平成19年10月までに以下のような対応を実施するとしている。
①貸付の中止と債権の移動
②チャンネル
※クオークローンはプロミスの自動契約機に乗り入れしており,独自の無人 店舗は保有していない。
③従業員
クオークローンの社員については,残留債権の管理回収等を行う一部の社員を残し,プロミスグループ内で適正な配置を行う。
なお,後述するが本件切り替え手続については,クラヴィスまたはプロミス店頭の双方の窓口で可能であり,同一業務がなされていた。
また,平成20年度決算短信13によれば,被告の子会社で,役員の被告との兼任は6名で,議決権等の所有割合は被告100%である。
すなわち,経営方針についての意志決定が同じであり,貸金業としての最も重要な自動契約機等のハードについても同一であり,従業員についても同一であれば,別法人とは名ばかりの同一法人と見なされるべきである。すなわち,法人格否認の法理の構成要件の一つである背後者と法人が同一であることは明白である。
そうすると,本件切り替え行為について,その法律構成を考慮するまでもなく,同一法人の内部的意志決定とみなされるべきである。法人格否認の法理に基づき強いて法律構成を主張すれば,このような切り替え行為自体社会的に許される行為ではなく民法1条3項権利の濫用(多数説)ないしは2項(最判昭和8年10月26日民集27巻9号1240頁)である。本件切り替え行為に関してはクラヴィスの背後者たるプロミスが実質的に同一である。また,他の要件である不正の目的とは過払金逃れである。本件クラヴィスの法人格が否認されれば,プロミスが全責任を負うべきであると考えるのですがいかがでしょうか。